本棚が決められない

本棚を買いたい。引っ越しした時からずっと買いたい。上京する2週間前、最低限の家具だけをニトリでまとめて買った。もちろんニトリだ。お、ねだんいじょう。信頼してるぞ。ニトリの家具は基本自分で組み立てる。だからその家具の「お、ねだんいじょう度」の半分くらいは組み立て手(くみたてて)が責任を負っている。ニトリで買った椅子、ふつうに使ってただけなのにネジが2本ほど外れた。私はふつうに使ってただけなのに…と言いながらあらゆる物体を破壊してきた女。昨日はベッドから謎の木の板が剥がれ落ちてきた。見覚えがない。台風の影響だろうか。繊細なのだ、ニトリの家具は。一人暮らしの部屋用に、私はニトリでローテーブルを買った。シャビーな雰囲気がお洒落なローテーブル。平たく言うとテレビ台だが、平たく言いたくないので頑としてローテーブルと言い張る。一段だけ棚になっているので、そこに漫画や小説を収納することにした。そのため、実家から持ってくる漫画は厳選した。400冊近くある蔵書からかなり吟味して、この漫画がすごい!ALL TIMES BESTを持ってきた。ただ、気になる作家の漫画が出たら買い、追いかけている連載の新刊が出たら買い、帰省するたびに実家にある漫画を持って帰ったりを繰り返しているうちにあっという間にローテーブルには収まりきらない量になってしまった。飽和状態だ。そのうえ今さらスラムダンク(愛蔵版)を集め始めるのだからタチが悪い。でも漫画はどうしても紙で読みたい。帯をなくしたい。カバーをめくりたい。だから私は紙媒体で漫画を買うのをやめない。溢れそうな漫画たちをどうすれば良いか。床に置くなんてことはできない。どこかに仕舞わなければ。簡単だ。本棚を買えば良い。どうせ懲りずに漫画を買い続けるだろう。最近は漫画に加え、中野に良い古本屋を見つけてしまい、歌集やら詩集やらをバカスカ買っている。そのうちその本棚にも収まりきらなくなる。その時はまた新しく本棚を買えばいい。しょっぱいウィンチェスターハウスみたいだ。行き当たりばったりが私のチャームポイント。亥年の女やさかい…。だから、本棚を探している。候補は3つ。ニトリ、通販、その他ヴィンテージの家具屋。IKEAは車がないと利用しづらいので候補に挙がらない。車というか車を出してIKEAに一緒に行ってくれる友人がいない。こんな悲しいこと私に言わせないでほしい。私の部屋は6畳の1K。狭い。もうこれ以上物を置く場所など残されていない。それでも私は本棚を置きたい。動線など知るか。どけ、私が通る。ニトリは本棚とラックのカテゴリは一通り目を通したが目ぼしいものはなかった。できればローテーブルと同じ風合いの本棚がほしい。(地震が怖いので)高さは1メートル未満の平べったいやつ。が、いくら探してもニトリには見当たらなかった。仕方ない。諦めて他を当たる。次に家の近くにある家具屋の通販サイトを覗いた。上京後、テーブルがないことに気づいてあわてて買ったのがここだ。上から見るとそら豆のような形でかわいい。壊滅的に物が置けないことに目をつぶれば、なかなか気に入っている。ここで、おっ!と思う本棚を見つけた。高さは1メートル未満、奥行きそこそこ。幅は普通だが、なんと、伸びる。うまく説明できないが、棚の部分が入れ子になっていて、ビヨ〜ンと伸びるのだ。説明文には収納力が2倍になると書かれていた。2倍!す、すごい。漫画買い放題だ(そんなことはない)。値段も安い。風合いはまあ、それなり。お、ねだんどおり。ニトリは偉大なのだ。実店舗がすぐ近くにあるので実物を見に行った。導かれるようにその本棚へたどり着いた。「何かお探しですか?」お姉さん、探してるんじゃない。私たちは惹かれあっているんです。邪魔しないでください。実物は良くも悪くも写真通りといった感じで驚きも感動もなかった。ほとんど心が決まりかけていたが、あいにく手持ちがない。お給料日までお預けだ。在庫はあるようだし、それまで待っててね。必ず迎えに来るからね…そうこうしているうちに給料日を迎えた。いざ!と思った矢先、運命の出会いを果たしてしまった。何気なくgoogleで「ヴィンテージ 本棚」と画像検索したところ、なんの変哲も無い木製の本棚を見つけた。小学校の教室に1つはある、カビ臭い本棚。二十四の瞳とか置いてあるやつ。まさにあれだ。収納力は普通。勘違いしないでほしい。これがショボいのではない。2倍になるのがすごいのだ。もちろん入れ子にはなってないし、特別なギミックは何もない。学級文庫の置いてある本棚としか言いようがない本棚。だがそこにどうしようもなく惹かれた。買おう。買うぞ。よし、今夜お前を買う。購入手続きを進める。名前と住所を入力する。日付を指定する。入金方法は銀行振込。よし。最終確認のページまでたどり着いた。このボタンを押せば学級文庫は私の手に。

 

だが、その先に進めない。何をためらっている。この本棚はニトリやIKEAとは違う。ヴィンテージだ。一点ものだ。今逃せば明日には他の誰かが購入してしまうかもしれない。そしたらもう二度と私のところへ来ることはない。何度もブラウザを閉じては開き、閉じては開きを繰り返す。いつのまにかカートが空になっている。まさか他の誰かが!?あわてて商品を探す。あった。カートに入れる。名前と住所を入力する。日付を指定する。入金は銀行振込。よし。購入を確定しろ。確定しなさい。確定…。ブラウザを閉じては開く。カートが空になっている…私はきっと、これ以上の本棚には出会えないと思う。なのに、何を期待しているんだ。思えば、いつもこうやって色んなチャンスを逃してきたような気がする。もっといい機会がある。もっといい人がいる。もっといい物がある。私が確定ボタンを押せずにいる間に、カートは空になっていた。だが、今回は違う。この記事を書き終えたら、私はこの本棚を買う。なぜなら今、私は酔っ払っている。この勢いでなら購入を確定できる。セクシーペルシャゴリラの名にかけて。

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