メコン川ごときが私の悩みを解決できるわけがない

夏休みだ。ラオスに来ている。


首都ヴィエンチャンには目もくれず、ルアンパバーンへやって来た。ルアンパバーン。皆が間違えて覚えてるルパン3世の歌詞みたいな名前だ。ルアンパバーンは街全体が世界遺産になっていて、そこらじゅうにド派手な寺院がゴロゴロある。日本でいう京都みたいなところだが、いけすかない高飛車な雰囲気はない。決して京都がいけすかなくて高飛車な雰囲気だと言いたいわけではないので京都の人は匿名垢で攻撃したりしないでほしい。

 

ルアンパバーンでは人も動物も静かでのんびりしている。犬とか猫とかおじいちゃんとか、その辺の道ばたで寝てる。近づいても逃げない。観光地らしく客引きもあるにはあるが全然消極的だ。サバイディー?ボート?とブツブツ言いながら3歩くらいついてくるだけで、相手にされなければさっさと諦めてベンチに座ってしまう。24時間テレビの100kmマラソンばりに並走してくる梅田の客引きを見せてあげたい。お姉さん!居酒屋違いますか!居酒屋どうですか!すぐご案内できますんで!居酒屋決まってますか!居酒屋どうですか!やってるんで!うちどうですか!居酒屋!情報は与えず、ただただパワーで圧倒する。怖い政治みたいだ。


ルアンパバーンの見所はなんといってもその雄大な自然だと私は思う。初めて見るメコン川には感動した。でかい!茶色い!川幅広い!赤茶色の水は汚れてるわけではなく、もともとそういう色らしい。不思議と綺麗に感じる。


昨日の午前中はメコン川のほとりでぼーっとして過ごした。川の流れは結構早くて、見てるとだんだんねむたくなってくる。寝付けない時に思い出したい映像ナンバーワン。時折観光客を乗せたスロウボートがすべるように川面を流れていく。流れるというより流されるという言葉の方がふさわしい。とにかくメコン川は大きく、たおやかで、とうてい人間がかなうような相手ではない。


こういうスケールのでかい自然を前にしたときに、よく「自分の悩みなんてどうでもよくなった」とか「自分がちっぽけに思えた」とか言う人がいるけど、あれはウソだと思った。いや、その人は本当にそう思ったのかもしれないけど、お前の悩みはそんなもんかと言いたい。確かにメコン川には圧倒された。少なからずショックを受けたし、心も震えた。でもメコン川のスケールのでかさと私の悩みは全く別の問題だ。一緒にするな。

メコン川広い。彼氏ほしい。メコン川でかい。結婚したい。メコン川雄大。親を安心させたい。メコン川茶色い。仕事でうまくいきたい。メコン川たおやか。てか早く会社辞めたい。メコン川おだやか。日本を出たい。メコン川が流れる。フィンランドに住みたい。メコン川が流れる。絵が上手くなりたい。メコン川が流れる。大金持ちになりたい。メコン川が流れる。痩せたい。メコン川が流れる。小顔になりたい。メコン川が流れる。


悩みというか欲望だけど、私の欲望はメコン川の幅が広いとか文明の母だとか流れが淀みないくらいで忘れられるようなものではない。断じてない。メコン川を見てる間はある種のトリップ状態になっているからそのときは悩みなんてどうでもいいかもしれないが、目を離した途端自我と煩悩に襲われて道の真ん中で暴れたくなる。助けてくれ!!!!!ラオ語で助けてくれってなんて言うの?サバイディー(こんにちは)しか知らない。サバイディー!!!!!さっきもお寺で見た仏像が綾野剛似でムラムラしてしまった。終わってる。サバイディー!!!!昨日は夕焼けを見に登った丘で、隣に座ったカップルが手でつくったハートマークの中に夕日を収めて写真を撮っていて嫉妬で首がねじ切れそうだった。サバイディー!!!!ホテルのスタッフのお兄さんがかっこいい。サバイディー!!!!!自転車のサドル硬すぎサバイディー!!!!!でもさっきメコンクルーズの運転手に「君は結婚してないの?そんなに綺麗なのに」って言われちゃった…


サバイディー♡


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