セクシーペルシャゴリラ

セクシーペルシャゴリラへの道のり

そばにいたいからやん〜ミントさん永遠なれ〜

前回の記事から一年近く経ってしまった。

あれからどうにか無事に就活を終え、今は卒論に追われながら終わりゆく学生生活を惜しみつつダラダラ過ごしている。

 

6月のはじめに就活が終わったのでその月末にフロムエーで見つけた地元の派遣会社の登録会に行った。サイトには「簡単シール貼り★時給1000円〜」「未経験者大歓迎!人気のお中元バイト♫」など魅力的なお仕事情報満載で興奮していたが、初日に派遣されたのは事務所から車で40分の山の中にある室温10℃の冷蔵庫で流れてくるハムのバーコードをピッとするお仕事。絶え間なく注ぐハムの名を永遠と呼ぶことができたなら、20℃近い室内外の温度差とタバコ臭い車で揺られる山道の往復に苦しめられ帰ってくるなり事務所のトイレでゲロゲロ吐いた。

 

次に派遣されたのは某通販サイトの倉庫だった。クーラーもないサウナのような倉庫の中で、注文の入った商品をひたすら集めて運ぶという、将来自分に娘ができたら「そんなこと人間がやってたの?」とドン引きされてしまうであろうお仕事だ。集める商品は30cm定規からエアロバイクまで幅広い。かなり重い商品もあって暑いわ腰は痛いわで体力的にはキツかったが、周りのスタッフがみんな親切だったことと、黙々と自分のペースで作業ができること、客相手ではないので理不尽に怒られたりしないこともあって結構気に入っていた。

 

7月のある日、階段をのぼる汗だくの私の背中に冷たい何かが吹きかけられた。ふりかえると霧吹きを構え怪しく笑うおじさんがいた。「暑いやろ?これで涼しなったやろ?」おじさんは私以外の派遣(若い女性だけ)にもシュッシュと謎の液体を吹きかけていた。

「ミントが入ってるねん。」ミントさんと呼ぶことにした。お礼を言うと調子に乗ったミントさんは出くわすたびに「気持ちいいのかけたろか?」と言ってくるようになった。この一件をきっかけにミントさんと私はグッと距離を縮めた。

 

「肩車してあげようか?」

「一緒に花火いこか」

「独身やろ?俺もやで」

投獄ギリギリの発言を繰り出すミントさんに私は無視を決め込んだ。ミントさんの縄張りは3階の発送エリア。私の仕事場は4階だったが忙しくなると3階にある発送エリアで梱包のヘルプに回った。ミントさんは発送エリアに来た私を見るなり「●●ちゃんや〜!」とわざとらしく喜んで見せた。梱包中もいちいち気づけば私の背後にはミントさんがいて、耳元で「なんでそんなに可愛いの」と吐息混じりに囁く。ミントさんの押す台車が私の足にぶつかると「ごめん!大丈夫?脚揉んだげよか」と10000%のセクハラ発言が飛び出た。鳥肌が立つほど気持ち悪くて呆然としていると「セクハラって言ったらあかんでw」とニヤニヤ笑った。これがセクハラじゃないなら一体なんなんだ。治療?その日の帰り道、同じ方向だった男性社員に「今日ミントさんに脚揉んだげよかって言われました」と報告したら「えっ!セクハラじゃん」と言っていたのでどうやら治療ではないらしかった。

 

ただでさえ男性経験がないのに60過ぎの男性からアプローチされどうすればいいか分からず、あと単純に死ぬほど気持ち悪かったので私は自然とミントさんを避けるようになった。それでもミントさんはめげない。

 

「ほんまにかわいい、自分絶対ミスキャンパスやろ?」

「●●ちゃんとお酒飲みたいわ〜」

「USJに行こうよ!」

止まんねえ。怯むどころか日々鋭さを増すミントさんからのアプローチ。耳元で囁かれるのは的確に急所を攻撃したいくらい気持ち悪いけど「かわいい」と言われて正直、悪い気はしない。肉親以外から「かわいい」と言われなくなって久しい22歳の処女にミントさんの最悪ながらもまっすぐなメッセージは刺さった。刺さるはずはなかったのに、刺さってしまった。

 

ある時ミントさんが「震災で壊れた橋で宙ぶらりんになったバスあったやろ?僕むかしあのバスのガイドさんと付き合っててん」と自慢げに話すのを、何言ってるんだこいつはと思わず吹き出してしまった。するとミントさんは「●●ちゃんが笑った!●●ちゃんが笑ってくれた!うれしいわ〜ホンマにうれしい!」と見たこともないような顔で笑った。そんなことがそんなに嬉しいのか。つられて私も笑ってしまった。 

次第に私は梱包に呼ばれることが少なくなった。それでもミントさんは私を見つけると笑顔で近寄り「今日もかわいいわ〜」と言ってくれた。いつの間にかミントさんを気持ち悪いとは思わなくなっていた。

 

少し肌寒くなってきた10月、「●●ちゃん、いつまでここ来るの?東京行かずにここに就職してよ」とミントさんは言った。新しいバイトが見つかるまでの数日だけのつもりだったのに気づくと4ヶ月経ち、私は派遣の中では3番目にベテランになっていた。

「来年の3月まではこっちにいるので、それまではここで働きますよ。」

私たちはわずかな時間を慈しむように残りの日々を過ごした。

 

久しぶりに梱包のヘルプに呼ばれた私がビーズクッションを箱に詰めていると、ミントさんが手伝いにきた。

「●●ちゃんと僕の・・・初めての共同作業やね」

「あの、私これ1人でできるんで、持ち場に戻ってもらっていいですよ。」と言うとミントさんは照れくさそうに言った。

 

「そばにいたいからやん」

 

そばにいたいからやん?!そんな、そんなことある?少女漫画で主人公に思いを寄せる野球部の当て馬しか言わないセリフ!不覚にもめちゃくちゃときめいてしまった。恥ずかしくてミントさんの顔が見れない。あまりの衝撃に返す言葉が見つからずに口をパクパクして「ォ・・・・・・ァ・・・・・・・」とか言ってるとミントさんは満足げに台車を押してどこかへ去って行った。

 

それからすぐ、人員削減を理由に派遣先が変わった。お歳暮のコーヒーギフトのライン作業はもう一つ宇宙ができそうなほど苦痛だったがどうにか2日働いた。私は新しいバイトを始め、もうミントさんに会うことはなくなった。

 

今思い返すと終盤私はほとんどミントさんにオチそうになっていた。白目は灰色に濁り、老眼鏡を鼻の頭にかけたぽたぽた焼きのおばあちゃんスタイルのミントさん。どっからどう見ても年金受給中のミントさん。たまに異臭がするミントさん。人妻を名乗るエッチな迷惑メールに返信しちゃうミントさん。私が水を飲んだ紙コップをゴミ箱から回収しようとしていたミントさん。ミントさんは、ただ若い女が好きな限界老人だったけど、無条件に私を愛してくれる無二の存在だった。中学時代は「ホームレス」「猫ひろし」と呼ばれ、恋愛はことごとくうまくいかず、22年間で自己認識はとことんまで歪んだ。自分で自分をブサイクと呼ぶことで傷付かないように予防線を張っていたつもりが、自分の言葉で傷ついて卑屈の煮こごりになっていた私を少しずつ時間をかけてほぐしてくれたミントさんの無償の愛。っていうか下心。別に本気で言ってるわけじゃないって分かってるけど、ミントさんがかわいいって言ってくれると嬉しかった。ミントさんの言葉に私の心はちょっとだけ、いやかなり救われた。ミントさん、かわいいって言ってくれてありがとう。捕まんなよ。

 

 

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